今日は、たった今起きたばかりのエピソードを、少しだけお話しさせてください。私が20年以上続けている、ジッポーライター作りにまつわる話です。ふだんは日記のように書くことはあまりないのですが、今日はどうしても、この出来事を誰かに聞いてほしくなりました。
午前11時の電話、「納期はいつですか?」「今日です」

その電話が鳴ったのは、今日の午前11時ごろでした。相手は女性のお客様。「ジッポーライターを、特急で作ってほしいんです」というご依頼でした。
私はいつものように「納期はいつごろでしょうか?」とお尋ねしました。返ってきた答えに、思わず耳を疑いました。
「——今日です。今日が誕生日なんです」
正直に言えば、最初は「え、今日ですか?」と、驚きの声が出ていました。大切な人の誕生日に、どうしても間に合わせたい。だから今日中に仕上げてほしい——お話を伺うほどに、その気持ちがまっすぐ伝わってきました。電話の向こうの真剣さに背中を押されて、私は気づけば「やってみましょう」と答えていました。受話器を置いたあとは、すぐに頭の中で段取りを組み立て始めていました。
そもそもジッポーライターは、時間のかかる仕事です

ここで少しだけ、私の仕事の話をさせてください。
中西工房のジッポーライターは、既製品にただ名前を入れて右から左へ流すようなものではありません。一本ずつ金属の状態を確かめながら、彫刻を入れ、加工をほどこし、磨き上げていきます。同じデザインでも、その日の素材のコンディションや仕上げの具合で、手のかけ方は少しずつ変わります。だからこそ、通常であれば数日、内容によっては一週間ほどのお時間をいただくことも珍しくありません。
つまり「今日中に」というのは、私たちの仕事にとっては、かなり無茶なお願いなのです。それでも引き受けたのは、20年やってきた自分の手が「なんとかなる」と言っていたからかもしれません。
最短3時間——20年でいちばんの特急便

私は大阪で「中西工房」という名前で、20年以上ジッポーライターを作り続けてきました。おかげさまで、業界でも老舗と呼んでいただけるようになりました。そんな私をもってしても、今日の仕事は特別でした。
オファーの電話から実際の納品まで、かかった時間はおよそ3時間。これは、長年の制作実績の中でも、文句なしの最短記録です。デザインを決め、加工し、仕上げ、最後の確認をして、お渡しできる状態に整える——その全工程を、たった3時間に凝縮しました。
時間換算して「3時間で納品」と口にすると、我ながら「めちゃくちゃ早いな」と思います。ふだんから、こんな特急対応を日常的にやっているわけではありません。むしろ、じっくり時間をかけて作るのが本来のスタイルです。だからこそ、無事に仕上がって箱に収めたときの安堵と達成感は、いつもの何倍も大きなものでした。
猛暑日、駅前のローソンの前で
しかも今日は、35度を超える猛暑日。大阪の夏らしい、じりじりと照りつける一日でした。
その暑さの中を、若いカップルのお客様が、わざわざなんばの方から私の最寄り駅まで取りに来てくださいました。待ち合わせは、駅前のローソンの前。お互いに汗をぬぐいながらお会いして、その場で商品をお渡ししました。炎天下の、ほんの数分のやり取りでしたが、私にとっては忘れられない時間になりました。
画面の向こうではなく、目の前の「本物のリアクション」
普段はネットショップでの取引がほとんどなので、こうしてお客様と直接お会いするのは、私にとっても新鮮な体験でした。
そして何より嬉しかったのは、商品を手に取ってくださったときの反応です。喜びの声、驚きの表情、思わずこぼれる笑顔——。画面越しにいただく「ありがとうございます」の一言も、もちろんありがたいものです。けれど、目の前で見せていただくリアクションには、やはり本物の重みがあります。作り手として、これ以上のご褒美はありません。「間に合って、本当によかった」と、心の底から思えた瞬間でした。
ネット専業だからこそ、対面の一日は特別だった
普段の中西工房は、基本的にすべてネットショップでの営業です。全国のお客様と、オンラインで日々やり取りをしています。効率の面でも、遠方のお客様にお届けするという面でも、ネット中心のスタイルは私たちによく合っていますし、これからもその軸は変わりません。
それでも今日は、生でお客様の顔を見て、直接お話しして、仕上がりを目で確かめていただいたうえでお渡しできました。これは、いつもの取引とはまた違う、新しい機会になりました。ものづくりをしていて本当によかったと、あらためて感じた一日です。
「モノ」ではなく、「記念」を贈るということ
ジッポーライターは、道具であると同時に、記念の品でもあります。名前や日付、ふたりだけのメッセージを刻めば、それはもう、世界にたったひとつの贈り物になります。
今日のお客様も、きっとそうだったのだと思います。ただ火をつけるための道具がほしかったのではなく、「その日」に間に合わせたかった。誕生日という特別な一日に、形に残るものを手渡したかった。だからこその、あの必死のご依頼だったのでしょう。
私たち作り手にできるのは、その想いを受け取って、精いっぱいのものをお返しすることだけです。刻まれた文字の一つひとつに、贈る人の気持ちがのっている——そう思うと、たとえ3時間の特急便であっても、手を抜くという選択肢は最初からありませんでした。
自分でデザインできる「中西工房メイク」
せっかくなので、中西工房のことも少しだけ紹介させてください。
現在は本店に加えて、新店やいくつかのお店を、すべてネットショップとして運営しています。そして最近新しくできたのが「中西工房メイク」です。
これは、お客様ご自身がデザインを入稿して、世界にひとつのオリジナルのジッポーライターを作れるという、画期的なシステムです。実は、10年以上前から「いつか自分の手で作りたい」と思い描いていた仕組みで、それをようやく、自分ひとりで完成させることができました。私にとっては、長年の夢がかたちになったサービスのひとつです。
そして——実はこの「みてみてねっと」も、同じように私が作っているシステムなんです。中西工房メイクには毎日たくさんのデザインがアップロードされ、たくさんの方に評価をいただいて、日々にぎわっています。眺めているだけでもわくわくしますので、よかったら、毎日更新されるデザインをぜひのぞいてみてください。それだけでも、きっと楽しい時間になるはずです。
今日のような「間に合ってよかった」を、これからも
誕生日や記念日の贈り物に、世界にひとつだけのオリジナルジッポーライター——そんな選択肢を、これからもコツコツとお届けしていきます。
今日の3時間は、私にとっても挑戦でした。でも、あのローソンの前で見た笑顔を思い出すと、やっぱりこの仕事はやめられないな、と思います。今日のような「間に合って、よかった」を、一つでも多く作れたら幸いです。
もしよければ、あなたの大切な人への贈り物にも、中西工房のジッポーを使っていただけたら嬉しいです。
中西工房 本店: https://nakanishikobo.com/o-zippo1.html 中西工房メイク: https://make.nakanishikobo.com/





